Esnus’s blog

知的障害者の母親を持つということ

#6.ルーティンを変えることが困難

 

これまで、ひろ江は時間の概念をもたず、

目先のルーティンが最優先であることを何度か述べました。
今回は、どんな事があってもルーティンをやめられない事例を

詳細にあげたいと思います。

 

ひろ江 
・軽度知的障害・発達障害(この時点では診断されていない)
・専業主婦 / 娘2人(健常児)
・職歴なし

 

 

事例 1. ルーティンを変えられない ①

ひろ江は年齢の離れた末っ子で、実母のタエコに大変可愛がられて育った。
その為か、ひろ江は実母が大好きだった。
88歳になっても、長男宅への同居に応じないタエコを見て、

ひろ江は、自分が引きとると言い出した。
こうして、タエコは88歳からひろ江の家で同居を開始することになる。

 

タエコは年齢相応に歯が無いため、普通米を咀嚼できず、

お粥に近い軟飯を炊く必要がある。
ひろ江は、何故か家族全員分の軟飯を炊いて食卓に出すようになった。
普通米を食べられる家族に軟飯を出すのは奇妙である。
「不味い」と言われても、「普通通りの水加減で炊いた」と言い張る。

 

案の定、夫タカシの機嫌が悪くなっていく。
耐えかねたタカシに怒鳴られると、翌日は普通米を炊く。
咀嚼できないタエコにもそれを出す。

 

1日目:
タエコが普通米を食べられない事を承知の上で、タエコに普通米を出す。
食事が始まると「どう、食べられる?」 とタエコに聞く。
「食べられないんじゃないの?どうなの?まあ、大変」と立ち上がり
バタバタと、替わりの食材を作り始める。(※1)

 

2日目:
翌日はタエコの為に軟飯を炊き、それを家族全員へ出す。
タカシの機嫌が悪くなり怒鳴られる。(※2)

 

3日目:
その翌日は普通米を炊き、タエコにも出す。

(※1)と同様の会話が始まる。

 

4日目:
その翌日は軟飯を炊き、家族全員へ出す。

(※2)と同様の会話が始まる。

 

上記(1)と(2)が交互に繰り返される。
1度や2度ではなく、毎日繰り返すひろ江は狂気に見えるが、正気である。

 


歯のない祖母は

何日経っても普通米を食べられるようになる筈がない。
それにも関わらず1日おきに普通米を出し、

「どう食べられる?」と都度、真顔でたずねる。
ひろ江を知らない人であれば、意地悪をしていると思うだろう。

 

タエコは穏やかな性格なので、怒ることはない。
「困ったな・・・ご飯が石のように硬くて食べられない・・」と

本当に困った顔をする。
見兼ねた次女は、1人分のお粥を電子レンジで作る方法を教える。
複数の方法を教えるが、ひろ江は試そうともせず、

頑として方法を変えようとしない。

 

タエコが同居するようになってから、タカシの機嫌は日ごとに悪くなっていく。
ひろ江を怒鳴る回数も増えていく。
家の中は前にも増して暗くなり

タエコが暮らしやすい環境には見えなかった。


事例 2. ルーティンを変えられない ②

 

娘たちが小学校へ通っていた頃のこと。
朝食はいつもパンだった。ひろ江はトーストを毎朝焦がす。
トーストを焼くにはスイッチを2~3に設定すれば十分であるが
ひろ江は力任せに5~6まで捩じる。

当然ながらトーストは焦げて煙があがる。
煙があがると突進していき、トーストを引っ張り出し

包丁でガリガリと焦げをおとし、

焦げてない面をうえにして皿にのせ平然と出す。

 

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毎日同じことを繰り返す母を見て娘は
「誰が焼いても絶対に焦げない方法があるので知りたい?」と聞く。
ひろ江が知りたいと言うので、トースターのところへ連れていき、メモリを見せ
「トーストは2と書いてある、メモリをここに設定すれば誰が焼いても焦げない。」と説明する。

 

しかし翌日以降も、ひろ江は力任せにスイッチを5~6まで捻り、焦がし続け
「焦げているほうが香ばしくて美味しい」と言い続ける。

娘たちは「自分のパンは自分で焼くので香ばしいパンは自分で食べるように」と

言ったところ
ひろ江はパンを捨て続けることになる。

 


捨てるのは経済的ではないと思ったのか、

ひろ江はようやくパンを焼くのをやめる。

ひろ江は経済的に損失を被ると行動を変えることがある。
それ以外の理由では変わることはなく、

基本的に毎日同じ行動を繰り返す。

 

考察:

 

ひろ江はルーティンを変えることが困難である。
上記の事例は、第3者がみれば狂気のようにみえてしまう。

ひろ江の症状は極端であり自閉症の症状にも近いように思う。


ルーティンの変更を受け入れることが難しいため慣れ親しんだ方法に固執する

 

もしくは”時間の概念の欠如により、先の事を見越せない” 為もあるのだろうか。
いずれにしても、家族の理解の範囲を超えている。家族は専門家ではない。
ひろ江の周りにはいつも不協和音がある。


ひろ江に対して怒らないのは、実母のタエコだけである。

早期にヘルプを得られたなら、本人も家族もどんなに助かったことか。
子供の時に発見されていれば、支援を得て生きられただろう。

 

誰にも気づかれず、今まで放置されているのが不思議である。
グレーゾーンにすら居ないのではないだろうか。
もしかすると、5~6歳程の知能しかないのではないだろうか。

 

筆者はこの記事が、誰かの目に留まることを切に願い、詳細に書いている。